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表記揺れ(ゆれ)、揺らぎとは
書籍、マニュアル、パンフレットなどの印刷物、あるいはWebページに掲載されている文章において、同じ意味の言葉がひとつの表記に統一されていない状態を「表記が揺れている」(名詞形で「表記揺れ」)と言います。
著者からの原稿に対して編集者が最初に取り組む工程に「原稿整理」というものがあります。簡単に言えば文章の体裁を整える作業で、文法や文字の誤りを正したり、見出しのつけ方を揃えたり、ページレイアウトの際の指示を書き込んだりするのですが、この原稿整理で意外と大きな割合を占めるのが表記揺れのチェックとその修正です。
表記揺れの分類と具体例
一口に「表記揺れ」と言っても、そのバリエーションはさまざまです。具体例をいくつか挙げてみましょう。
a. 漢字かひらがなか:様々・さまざま
b. 送りがなが本則か否か:行う・行なう
c. 漢字表記のバリエーション:上る・登る・昇る
d. 外来語のカタカナ表記:ウインドウ・ウィンドウ
e. 同じものの異なる呼び方:パソコン・PC
f. 単位の不揃い:1.5m・150cm
g. 敬称の不揃い:皆様・皆さま・皆さん
h. 動詞と名詞で送りがなを変える場合:振り込む・振込
i. 英単語が大文字か小文字か:YES/NO・Yes/No
表記揺れが起こる理由
上記の例のうち、a.〜d.はもっぱら書き手個人のクセによるところが大きい表記揺れです。「この単語は漢字で書く。この単語はひらがなで書く」と自分なりの方針が明確な著者であれば表記揺れは生じにくいのですが、そのあたりにこだわりのない著者だと、同じ人が書いているのに表記がバラバラ……というケースもよくあります。文章における「表記」とは著者の個性が現れる部分でもあるわけです。
そうなると、1冊の本を複数の著者が分担して原稿を書くような場合、「1本1本の原稿の中では表記がきちんと揃っているが、本全体としてみると表記揺れが生じている」という結果を生むことになります。
表記揺れを防ぐ事前準備
表記揺れを原稿整理や校正の段階で揃えようとすると、かなりの手間になります。あらかじめ表記ルールを決めておいて、執筆する時点で揃えてもらうよう各著者に要請するほうが格段に効率的です。
次に挙げるのは特にルール化しておきたい項目の例です。
j. カタカナ語の末尾の音引きの有無:エレベーター・エレベータ
k. 住所の表記法:本町1-1・本町一丁目1番
l. 「か」のバリエーション:1か月・1ヶ月・1ヵ月
m. 年の表記:2022年・令和4年
n. 複合動詞で前者の送りがなだけを省略する場合:申(し)込み、問(い)合わせ
マニュアルに表記揺れがあると……
マニュアルに限ってみると、上述のa.〜c.に類する表記揺れは多少あっても実用上あまり問題になりません。しかしd.〜f.に類する表記揺れがあると、とたんにユーザーを混乱させてしまうことになります(たとえば押しボタン型の電源スイッチを「ボタン」と表記したり「スイッチ」と表記したりするなど)。表記揺れが甚だしいと雑に制作されているという印象を持たれ、ユーザーからの信頼を損ねる結果につながりかねないので注意が必要です。

表記揺れチェック
ところで校正者は長い文章の中に潜む表記揺れをどのように見つけているのかというと、実はほとんど記憶に頼っています。ある単語が漢字表記で出てきたとき「たしかこの言葉はひらがな表記されていたはず」と前のページに戻って確認するという地道な作業です。ただ、表記が揺れやすい単語はほぼ決まっているので、経験豊かな校正者はその単語が出てきた箇所をメモしながら読むことが習慣化できているものです。

文書の電子化によってファイル上での全文検索が可能となったため、表記揺れの発見・修正が容易になりました。ただし、動詞や形容詞を検索する際には活用形の存在に留意する必要があります。また、安易な一括置き換えは予期せぬ箇所を巻き込んでしまうことがあるので注意が必要です(敬称としての「様」を「さま」に統一しようと一括で置き換えたら、文章中の「様子」や「仕様」などの単語まで「さま子」や「仕さま」になってしまったなど)。
なお、校正ソフトやワープロ等に付属する校正機能は年々精度を上げてはいるものの、まだ信頼性が完璧とは言えないので過信は禁物です。
用語集、記者ハンドブックの活用
揺れている表記を統一する際の基準はいくつかあります。手っ取り早いのは文章中に多く出てきたほうに揃えるというものですが、同数の場合は編集者が適切に判断を下すことになります。その判断の助けになるのが主に新聞社が制作・刊行している「用語集」で、「朝日新聞の用語の手引」「読売新聞 用字用語の手引」「毎日新聞用語集」などが市販されています。中でも共同通信社の「記者ハンドブック」は出版社、ライター、校正者など、文章に関わる仕事をする人々にとっては必携の一冊と言っていいほど広く利用されています。
また、市販の用語集には収録されない業界用語や社内用語などの表記ルールを独自にまとめた用語集を編集プロダクション、ライター、校正者に配布している会社も多くあります。
表記揺れに気を配ることはマニュアル類の精度を高め、ひいてはユーザーの信頼を得ることにも繋がります。ライティング、原稿整理、校正の各工程において、軽視することなく取り組むことが大切です。
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